アナウンサーズマガジン

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仲山今日子アナのblog

カダフィ政権下のリビア

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数々の世界遺産を含め、ローマ時代の遺跡が豊富に残るリビア。
約1950年前の遺跡がそのまま、お洒落なレストランになっていました。


「40年前のクーデターの時は、躍り上がって喜んだよ。そりゃあ嬉しかったね」
当時、空軍のパイロットだったというムハンマドさんは、日焼けした顔をほころばせて、そう語った。
その首筋には、10cmほどの大きな傷跡。
何で負った傷なのかは、ついぞ最後まで聞けなかった。

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ベンガジ空港を背に


現在反政府勢力が制圧しているという、リビア第2の都市、ベンガジでのことだった。

私がリビアを訪れたのは、今から約1年半前の、2009年7月のこと。
手付かずの、ローマ時代の見事な遺跡が残っているということ、
世界で最も長く政権を握り続け、アメリカに「中東の狂犬」とまで呼ばれた、カダフィ氏が治める国。
日本とはあまりにかけ離れ、ベールに包まれたその国で、人々はどんな暮らしをしているのか。
そんな思いがつのっての訪問だった。

現地ガイドの紹介で知り合ったムハンマドさんは、
妻と7人の子どもたち、少し認知症気味の95歳のお母さんと暮らしている。
リビアの伝統的な大家族の家庭だ。

ムハンマドさんが子ども時代を過ごしたのは、王政時代のリビア。
当時は識字率も低く、父親が早くに亡くなり、
貧しかったムハンマドさんは、空軍で働きながら大学で学位を取ったという苦労人だ。

しかし、ムハンマドさんによると、革命後、石油が高値で売れるようになり、
豊かになった今のリビアでは、男女ともに大学まで卒業するのが一般的。
若者に人気なのは、ホワイトカラーの「先進的なオフィスで働く」仕事で、
ブルーカラーの仕事は
「外国人労働者がやるもので、自分たちがやるべきことではない」
という意識が強いそう。

ただ、伝統的なイスラムの戒律も生きている。
女性にはスカーフ着用の義務はあり、若い女性の一人旅も基本的には許されないが、
最近では、寄宿舎暮らしを条件に、イギリスなどに留学をする女性もいるという。

情報化も進んでいて、中産階級と呼べるであろうムハンマドさんの家にも、パソコンがあり、
大学でコンピューターを学んだ娘の一人はIT系の仕事をしているという。
「インターネットからは、若い娘には良くない情報も入ってくるから、
一応フィルタリングをして、私たち親の目の届くリビングに置いてある。
だけど、完全にコントロールはできないし、しようとも思わないよ。
娘であろうと息子であろうと、自分で自分の人生は選び取って欲しいからね」

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軍で働いていただけあってか、ムハンマドさんは59歳という年齢にも関わらず、
当時既に20kg近くあったうちの息子を片手で軽々と抱き上げて連れ歩いてくれた。
しかし、訪れたマーケットで、
「このあたりは果物が名産なんだ、ほら、持ってママの方を向いてご覧。」と、
息子をあやしながら写真のポーズをとらせてくれたりする様子は、
退役した空軍のパイロットというより、どこにでもいそうな、優しいおじいちゃんに見えた。

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マーケットにて。
ヨーロッパのイメージの強い地中海ですが、リビアの多くの都市が面しているのも、地中海。
ベンガジも、まぶしい太陽が降り注ぐ町。
果物もおいしいわけです☆

そんなムハンマドさんに、最近一番嬉しかったことはと聞くと、
息子の一人が、父である自分と同じ、空軍に入ったこと、と語った。
「戦争が起きたら?そりゃあもちろん戦場に送るよ。
飛行機が落ちたら、だとか、そんなこと心配してもきりがないさ。」

そうそう、リビアの飛行機は、世界一安全だよ。
何といっても、空軍を早期退職したパイロットが操縦しているんだから。
そう付け加える表情に、一瞬、かつての空軍パイロットとしてのプライドが覗いた。


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初めて訪れた、未知の国・リビアは、本当に美しい国だった。

これまで見た中で、最も美しい海は、リビアの海だと思う。

ベンガジから首都トリポリに戻り、そこから車で1時間あまり、
現地ガイドのイブラヒムに、子どもの頃からよく遊んでいたという、
世界遺産の遺跡の中にある浜辺に案内してもらった。


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遠浅の、どこまでも透明な水に、白い砂浜。
遺跡の中という場所柄もあってか、他に泳ぐ人の姿も見られない。
水平線に向かって泳ぎ、振り返れば、大理石で作られた見事な円柱が立ち並ぶ、遺跡群。
生まれてこのかた、一番贅沢な海水浴だった。


そもそも、真夏の暑い盛りということもあったのか、
どこの遺跡も、観光客の姿はないに等しく、遺跡全体がほぼ貸切状態だった。
2000年以上前の歴史が、そのまま目の前に広がっている。
最低限の看板はあるものの、見る側と遺跡を隔てる、規制のロープや、
「立ち入り禁止」「撮影禁止」などの、ごてごてした表示は皆無。

誰もいない遺跡にそっと足を踏み入れると、
まるで、自分が初めてこの遺跡を発見したかのような錯覚と、新鮮な感動を覚える。
柱が無造作に倒れた神殿に、紀元前に刻まれた文字。
人物や動物の精密なレリーフは今にも動き出しそうだ。

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しかし、「手付かず」の弊害も、同時に現れてきていた。色とりどりの大理石で作られたモザイクの床は、一部が崩れてボロボロになっていた。
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「本当は保護しなくてはいけないのに、酸性雨などの影響で、自分が子どもの頃よりも、はるかに早いスピードで劣化が進んでいる。軍備や灌漑も大事だけれど、我々の祖先の遺産を大切にしなければいけないはず。」
遺跡から5分ほどの場所に住み、毎日遺跡の中で遊んでいたというイブラヒムは、指で崩れかけた部分をそっとつつきながら、そうつぶやいていた。

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イブラヒムの家で。
ひとつの敷地に親戚一同がそれぞれ家を建てて住んでいます。
日本人が来た!と、子供たちが勢ぞろいしてくれました。


首都・トリポリで、数々の歴史の舞台となった緑の広場は、訪れてみたい場所のひとつだった。
さぞかし重厚な歴史を感じる雰囲気なのだろうと訪れると、拍子抜けすることに、
巨大な駐車場になっていた。
カダフィ氏が演説する日など、使うときだけ広場にするのだという。
その演説の場所だけが、兵士に警備されていて、気軽に近寄ることができなかったが、
その周りはごく普通の繁華街だ。
カフェ、ローストチキンを売るファストフードのようなつくりの店、スポーツブランド「ナイキ」のショップ。
道をはさんだ向かい側には、青い地中海が広がっていた。

写真左:緑の広場。奥に見えるのが演説場所。 写真右:近づくとこんな感じです0309_34.jpg
緑の広場のすぐそばにあるカフェには水煙草を楽しむ人たちが


そのとき、石油を潤沢に産する国・リビアは、
数多くの外国人労働者に支えられ、豊かな暮らしを享受しているように見えた。
フィリピンからは看護師、モロッコやシリア、トルコからは土木作業員、
チュニジアからはホテル従業員、スーダンやエジプトからは農場労働者・・・。

物売りも外国人の姿が目立ちます
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世界遺産ガダーメスの旧市街の工事はカメルーンなどからの労働者が行っていた

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どの商店にも当然のようにカダフィの肖像画が掲げられていました

ガイドのイブラヒムも、年に1回は海外に旅行に行き、 「スイスの緑豊かな山や川が好き」と語っていた。休みの日は数時間ネットサーフィンをして過ごし、 時には、男女の出会いの場としてリビアの若者たちの間で普及しているという、 ネットのチャットを利用して、イスラム教の戒律の厳しいリビアを抜け出し、 車で3時間ほどの、隣の国チュニジアまで出かけて女の子と会ったりしている。 本来、戒律では、外国人や旅行者を含めて、 表向きはお酒を飲むことはできないけれど、実際は飲める場所もある。 そんな姿は、今の日本の若者とさほど変わりがないように思える。


街中に物乞いの姿もなく、学校にも行かず物売りや車の窓拭きで生計を立てる子どもの姿もなく、
週末になると、首都トリポリの大きな遊園地は明け方近くまで、親子連れでいっぱいだった。
そこにある、「ある程度の自由」に、人々はそこそこ満足して暮らしている、そんな印象を覚えた。

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週末の遊園地に集まる人々

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土産物屋には世界の言葉に翻訳された革命についての本『緑の書』やガタフィ氏の絵はがきなどがたくさん並んでいた

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しかし、冒頭にご紹介した、元空軍パイロットのムハンマドさんは、カダフィ氏が革命を起こした時、どんなに嬉しかったかを語った後に、こう続けていたのだった。

「当時国を治めていた国王は、決して悪い人間ではなかった、でも、その下の人間がよくなかったんだ。国王は歳を取り、それをコントロールできなくなってしまった。
そう、今の政権も・・・。」

あれから1年半。ムハンマドさんが住むベンガジなど東部の一帯は、反政府勢力が制圧したとして、政府軍の空爆が続いている。中には、ベンガジへの空爆を拒否して、投降したパイロットもいると聞いた。ムハンマドさんの息子は、あの飛行機に乗っているのだろうか。

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日々伝わるニュースで、現地の状況を聞くたびに、旅の途中に知り合った人々の顔が浮かぶ。

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美しい自然と遺跡の国、リビアに、早く平穏な時間が訪れることを、心から祈りたい。

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